三国志の人物名に2文字が多いワケ

 三国志の人物として、一般の人が思い浮かべる名前としては、まず劉備、関羽、張飛や曹操、孫権などがいるのではないかと思います。その他の人物たちの名前を思い浮かべても、彼らのほとんどが姓が1文字、名が1文字の2字となっています。何故でしょうか。

 

2字名の普及事情
 現代中国人には毛沢東や蒋介石など、姓が1文字でも名が2文字の人物が多々登場します。では、これらは時代が進んでからの名前の付け方なのでしょうか?

 実は、そうではないのです。例えば三国時代より数百年も前の春秋時代にも、司馬穰苴であるとか伯州犂であるとか、既に2字の名を持つ人物が登場しています。ただしまだ少数派でした。
 その後時代は戦国、秦と下って、劉邦が創始した漢王朝(前漢)にはその割合がどんどん増えていき、個人的な感覚ですが、武帝の時代には2字名の方が一般的に思えるほど普及していました。そもそも1文字だと同姓同名が増えすぎるので、2文字にする方が合理的ですよね。

 

原因となった人物

▲王莽

 その後、漢王朝は最終的に、王莽という人物に乗っ取られてしまいます。彼が皇帝となった王朝を「」王朝といいます。名前の由来は彼が漢王朝から元々与えられていた領地が新野という地域だったことで、新しい王朝というわけではありません。なお、このように創始者が元々与えられていた領地を由来として王朝名をつけるやり方は、それ以降の時代でもほとんどあてはまるくらいの主流となっています。

 王莽が行った政治は一言でいうと「儒教復古政治」です。古代の周王朝が行っていたとされる、儒教的に理想な統治を再現しよう、というスタンスなわけです。

 しかし、数百年も前のやり方をそのまま現代に当て嵌めても、うまく行くわけがありません。さらにいえば、そもそもそんな昔に、儒教の経典に記されているような統治が実際に行われたのかなんて、誰にもわかりません。そんな名目だけの統治は現実としてさまざまな齟齬を生み出し、産業や経済の崩壊をもたらします。人々の不満は高まり、生活に困窮した農民が賊として各地を荒らしまわったりしました。

 その後王莽の王朝は農民や豪族、漢のもと皇族たちによる反乱軍によって滅びます、その後群雄割拠の世ののち中華を統一したのが、劉秀(死後、光武帝と呼ばれる)です。彼が復興した後の漢王朝を「後漢」と呼び、三国志の時代に滅びるまで続きます。


▲光武帝・劉秀

原因となった政策
 さて、本題に戻ります。そんな王莽が行った時代錯誤の政策の一つが「二名の禁」です。古代には2文字の名前は使われていなかった、という理由で人々に2字の名前をつけることを禁止してしまったのです。王莽の王朝はすぐに滅びてしまいましたが、そのまま後世に影響を与得た例の一つがこの二名の禁だったのです。三国時代までこの風潮が維持されたのは不思議でもありますけどね。

 

やはり現れた弊害ー二人の劉岱
 ちなみに、この弊害で同姓同名の人物は実際に登場してしまい、時に紛らわしくなります。例えば三国志には二人の「劉岱(あざな:公山)」という人物が登場します。この二人の紛らわしいところは、似たような地域に登場した上に、片方が死亡した少し後にもう片方が登場することです。

 先に登場する劉岱は兗州刺史。董卓討伐軍にも参戦しています。のちに青州黄巾族の圧倒的大軍に対して果敢に(無謀な)戦いを挑むものの、敢えなく踏み潰されて戦死します。これによって生じた政治的空白に曹操が介入し、後の大勢力の礎を築いたことは有名です。なお、以前の記事で紹介した劉繇の兄でもあります。

 そして、後で登場する劉岱は曹操の武将です。徐州に陣取る劉備を攻撃して敗退したことで有名になってしまった可哀想な人物でもあります。このように、あまりにタイミングが良すぎるため、小説・三国志演義では同一人物として描かれてしまっているのです。これは極端な例ですが、他にも同時代に同姓同名の人物が現れた例は複数出てきています。

 

2字名はダメでも2字姓は問題なし
 さて、三国志の人物に2字名が多い理由は王莽の復古政策によるものとわかりましたが、諸葛亮司馬懿のような3文字の人物はどうなのか。彼らの姓は諸葛、司馬という2字姓なのです。なので、二名の禁の影響で1字の名を持っても姓名は3文字になる、という例外でした。

 

 このように、三国志を起点として他の時代とのつながりを調べてみるのも面白いと思います。例えば王莽の滅亡後に天下を統一した劉秀を描く宮城谷昌光さんの「草原の風」、劉秀に従った名将・呉漢を描く同「呉漢」は個人的に名著だと思っています。後者の方はより創作の度合いが強まってはいますが、だからこそ名文として仕上がっている印象です。春秋戦国や南北朝その他の時代も興味深いので、興味があれば小説からでも触れてみると面白いかもしれません。

 

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